ホルモン補充療法(HRT)


BRCA1とBRCA2と呼ばれる遺伝子の家系的な問題

男性は、がんが発症しやすい事実からわかるように、抗がんの能力には男女差があります。元々、女性は異物排除能が高いことが、ここでも影響しています。しかし、現状は、酒やタバコの消費量は、男女でかなり異なりますので、今の男女差の数値に至っています。ガン化現象も、社会的影響を受けますから、今は、生活習慣の男女差が少なくなり、がんになる人の男女差が縮まってきています。

元々、がんにかかりやすい体質を持つ人がいます。こうしたタイプの人の体細胞には、遺伝子の変化が起きやすいです。がんの発生を抑制する遺伝子として有名なのは、P53です。P53は、がん化しかけた細胞のDNAを元にもどす働きをしています。ですから、P53遺伝子に変化がおき、元にもどす能力が落ちると、がんが発症しやすくなります。P53の変化がおこりやすい人は、腫瘍が起きやすいということになります。がん細胞では、P53の複数の遺伝子箇所で、遺伝子の変化が起きています。P53の変化は、喫煙者、非喫煙者で起きていますが、その遺伝子変化の様相は、喫煙者と非喫煙者で違っています。腫瘍が発生してしまった人は、その腫瘍細胞のP53が変化します。


がん誘発因子代謝酵素(carcinogen metabolism enzyme)も、体内からがんを消す役目をする物質です。この仲間に、CYP1A1 、GSTMと呼ばれる物質があります。
しかし、CYP1A1とCYP1B1は、名前はAからBに変化しただけですが、異なる酵素で、CYP1B1は、逆にがんを誘発する方向ではたらきます。ちなみに、CYPは、全身に分布している体内物質を代謝する蛋白物質です。薬が体内で変化していく時(代謝)に活躍します。同じCYPが、異なる薬の代謝に関係するので、薬の効きや飲み合わせに変化が起きるのです。


BRCA1とBRCA2と呼ばれる遺伝子の異常の有無を調べることにより、がんの性質を知ることができます。がんが発症前に、この遺伝子の変異をもっているかどうかを調べることができます。将来のがん発症を予想することに使われたりします。BRCA1とBRCA2の遺伝子変異を併せ持っていると、乳癌の生涯罹患率がかなり上昇します。こうした変化した遺伝子を持つ人を、キャリアと呼びます。外国では、家族に乳がんの人が多く、本人もその変異遺伝子を持つ場合は、予防的乳房全切除術をする人がいます。
 

BRCA1、BRCA2の位置づけが固まるまで
1990年代に入ると、早い速度で、遺伝子異常と、発ガンとの関係についての研究が進みました。1994-1995年に、BRCA1又はBRCA2に遺伝子異常のある人は、高い確率で、将来がんが発症することが明らかになりました。特に、家族内に複数のがんの患者が発生する、いわゆるがん家系で、遺伝子検索がすすみました。代表的ながん遺伝子であるBRCA遺伝子と、乳がん、卵巣がんとの関係が明らかになりました。
 
当初、遺伝子検査は、大変な労力がかかるものでしたが、方法論の進歩により、大量の遺伝子検索が可能となりました。がんが発症する遺伝子異常のあった人の家族を調査して、がん発症以前に、BRCA1又は、BRCA2遺伝子を検査し、カウンセリングが行われるようになりました。将来の発がんが濃厚に疑われる人では、その臓器を摘出していまう人もいました。しかし、現実には、がん家系の背景のある女性たちを、個々に、将来、どの位のがん発症率であるとの数値を出すことは難しい作業でした。
 
BRCA遺伝子における蛋白合成にかかわる塩基配列の変異は、750以上の箇所が、報告されています。2000年に入ると、どの部分の遺伝子変異が、将来のがんの発症との関連が強いのかに関して、研究成果が集積されていきました。初期には、家族内にがんが多発する家系が調査の対象であったため、遺伝子異常があると、将来的ながん発症の予測確率は高く設定されていました。
 
特に、1995年頃の時点では、がん多発の家系を基準に遺伝子検索が行われたため、遺伝子異常のある人の、将来のがん予測は、高く評価される傾向にありました。濃厚ながん発症家系があり、かつBRCA遺伝子異常を持つ女性の場合と、本人はBRCA遺伝子異常を持つが、家系内にがん発症はない女性の場合では、がん発症の予測値は変わります。そのため、予測値は、幅広い値になります。
 
BRCA2遺伝子の特定部位には、卵巣がんの発症と良く相関する部分が集まっています。卵巣がんが起きやすくなる特定部位の遺伝子変異があり、この場合は、乳がんの発症は、少なくなったりします。1995年に、Gaytherらは、BRCA1遺伝子の塩基配列の最初の2/3部分の異常があると、後の1/3の部分の異常より、乳がん発症と関係することを見つけました。つまり、BRCA遺伝子のどこの塩基配列に異常があるかどうかで(生まれた時に決まる)、乳がん、卵巣がんの発症と関係することがわかってきたのです。
 
2003年、Antoniouらが、1995年以後の初期の調査結果を示しています。BRCA1の遺伝子異常を持つ女性は、50歳までに、34-73%、70歳までに乳がん50-87%との数値がでており、卵巣がん発症は、50歳までに、21-29%であり、70歳までに44-68%の数値です。BRCA2の場合は、70歳までに乳がん70-80%の発症、卵巣がん30%の発症が予想されるとされました。
 
さらに、2003年のAntoniouらの同じ論文上で、がん発症者の遺伝子家系調査を、幅広く行った論文をレビューしました。そして、より、一般化できる予測数値を検討しました。
 
対象となったのは、すでにそれまでに論文発表された22研究論文の8139人のデータ解析でした。すでに、乳がん、又は卵巣がんが発症した女性(インデックスケース)がいる家系に属する人8139人の遺伝子検査をして、そのうち500人に、BRCA1、BRCA2の遺伝子異常がみつかりました。
この調査は、濃厚ながん家系に属する人だけでなく、遺伝子異常のあるがん発症者が単発で親族にいる場合も含みました。
 
この多施設研究の集計によると、遺伝子を調べた人のうち、BRCA@遺伝子変異を持つ人では、70歳までに、乳がん発症は、44-78%、卵巣がん発症は、18-54%となっています。BRCA2の場合は、70歳までに、乳がん発症は、31-56%、卵巣がん発症は、2.4-19%と算出しています。
 
特に、家系に、35歳以下でがんになった人のいる人では、遺伝子異常と、将来のがん発症は、高くなりました。BRCA1では、若くしての発症を免れると、加齢してからの発症は少なくなりましたが、BRCA2遺伝子異常者では、そのような加齢との関連の傾向は見いだせませんでした。



次に、肺のがんについて、BRCA1、BRCA2の男女差を見てみます、

BRCA1、BRCA2は、肺がんと関係するたんぱく質です。しかし、肺の場合は、女性の方が、男性よりBRCA1、BRCA2の変化を持つ人が少ないです。予想されるとおり、肺の腫瘍のエストロゲン受容体は、女性の方が多く、X染色体を2つ持つ女性では、X染色体関連蛋白が、がんの性質や転移に影響を与えます。女性は、X染色体に存在する遺伝子は、2つのアレルをもっています。ボンベシン様ペプチド(bombesin-like peptide)に属するGastrin-releasing peptide (ガストリン放出ペプチドGRPと呼ばれ、胃が分泌するガストリンを促進させる神経分泌ペプチド)などがあります。

上皮成長因子受容体Epidermal growth factor receptor (EGFR)も、がんに関係する物質です。当初、線維芽細胞の増殖する時に必要な物質として発見されましたが、その後、がん細胞に発見され、がんの性質を知る時に利用される受容体です。肺がん細胞に、この遺伝子変異を持つ人は、女性が多くなっています。

肺の非小細胞がん(NSCLC)になりやすい女性の腫瘍細胞では、K-ras(がん化関連物質)に変化が、男性より頻繁に起きています。K-rasの変化は、喫煙者に起きやすいですが、非喫煙者にも同様の変化がみられています。

こうした物質や受容体の変化があるかないかは、がん細胞の顔つきにあたるものです。そして、予後や治療成績にも関係します。


『非喫煙関連の肺がん』

『非喫煙関連の肺がん』が注目されています。非喫煙者肺がんの臨床特徴を調べた論文を紹介します。

非喫煙者の非小細胞肺がん(NSCLC)は、女性に多く、組織は、腺がんが多くなります。非小細胞肺がんの病因は、明確でなく、発がんの可能性としては、間接喫煙、職業的な暴露時間、既存の肺疾患、ダイエット、エストロゲン暴露が考えられます。

元々、肺がんは死亡率の高いがんです。喫煙に関連する切除不能の進行がんと比較すると、非喫煙者に起こる肺がんでは、予後は良いです。

EGFR(上皮細胞増殖因子受容体)突然変異のような最近認められた新しい遺伝子突然変異は、主に非喫煙者がん、または軽度喫煙者に限られています、そして、この遺伝子の表出するタイプの肺がんは、ゲフィチニブ(上皮細胞増殖因子受容体型チロシンキナーゼ抑制剤)の効果の期待できるタイプです。 EML4(未分化リンパ腫キナーゼ)融合遺伝子のあるNSCLCは、非喫煙者の腺癌で、起こりやすく、ALK抑制剤による治療効果が期待できます。 Int J Clin Oncol. 2011 Aug;16(4):287-93PMID 21562939



がんの話しは、用語が難しいですね。がんの領域は、難しい用語や新薬が多く、薬の作業機序を知らなければならないので、最初は、誰でも混乱すると思います。

しかし、誰でも、運が悪く、がんになることがあります。それから勉強をしていくのは、かなりつらいです。今は、がんと関係が無い方でも、普段から、こうした用語を知っていると、将来、何か役にたつと思います。医学が進歩すると、使われる薬の名前も変わってしまいますが、治療経験は引き継がれます。人の知恵により、いつか、がん化そのものが防げるようになる時がくると願っています。


 

 
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