女性の骨


骨をめぐる話題
閉経後の骨粗鬆症の予防に、女性ホルモン療法による治療効果がありますが、高齢の女性では、がんや血液凝固のリスクが高くなり、女性ホルモン療法は、勧められないとされています。女性ホルモン療法は、閉経後、間もなくの5年以内にとどめた方がよいというのが、世界的コンセンサスです。
 
そのため、本当に骨が弱くなる(骨塩量の低下)年齢になった高齢者では、この治療を続けることができません。治療効果は、女性ホルモン療法を施行中に出るもので、中止後は、その効果が何年もつづくわけではありません。

この論文は、15年間にわたり、閉経後の女性の骨塩量を追跡したものです。調査対象となった女性は、いろいろ、骨を維持する手段をしていますが、全体として、加齢による骨の強度低下は、免れないようです。骨塩量は、体重が重要因子で、体重が多い人は有利です。

Calcif Tissue Int. 2011 Jul 26. [
閉経後の女性で大腿骨頸部(FN)と、腰椎(LS)における、15年間にわたる骨塩量の減少の経過を追いました。そして、追跡開始時(ベースライン)で測定した血清デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩(DHEAS)濃度と、骨塩量の関係を調べました。  15年にわたり追跡的に、8回の大腿骨頸部と腰椎の骨塩量を、DXSA法(二重エネルギーX線吸光光度法)を用いて測りました。
 
追跡開始時時、45-68歳(平均54.7歳)であった閉経後の女性(n = 1,003)を対象としました。 ベースライン年齢、エストラジオール、女性ホルモン補充療法の有無、BMIで調整しました。大腿骨頸部の骨塩量は、1年につき、平均0.49%(95%のCI 0.31-0.71%)減少しました;。血清DHEASのマイクロモル/Lごとの増加は、大腿骨頸部の骨塩量の損失が0.49%少なくなりました。 しかし、年齢とともに、DHEASと骨塩量の関係が弱くなりました。腰椎では、大腿骨頸部より、DHEAS濃度との関係は弱くなっていました。
 
つまり、追跡開始時に血清DHEASが高いと、大腿骨頸部と、その後の腰椎の骨損失を減らすことができますが、この相互関係は年齢によって縮小してしまいます。骨を丈夫にしておきたい女性は、DHEASを高めておくことが必要でしょう。
 
骨に女性ホルモンは大事ですが、骨の維持には多因子が関与し、老化因子が増えれば、骨塩量の減少は進みます。DHEASは、女性にある男性ホルモン物質で、副腎皮質でつくられます。閉経後に、この物質が高い、あるいは高めておくと、骨塩量の減少が減弱できることを示した論文を紹介します。しかし、DHEASの骨に対する効果は、年齢と共に減って行ってしまいます。このDHEASについての論文です。
Osteoporos Int. 2008 ;19(8):1211-7.
閉経後の女性において、大腿骨頸部と腰椎の骨塩密度の変化を、15年にわたり、身長、体重、女性ホルモン補充療法の有無、カルシウム/ビタミンD補助剤の有無などの因子と共に評価しました。追跡開始時(ベースライン)において、平均年齢 54.7歳の955人の閉経後の女性を対象としました。
 
年齢と共に、腰椎と大腿骨頸部の骨塩量は減少していきました。大腿骨頸部は、1年につき1.67%の線形の減少カーブを示し、腰椎は、1年につき3.12%に、方形に減少しました。女性ホルモン補充療法を施行している間は、大腿骨頸部と腰椎の骨塩量の減少は、3分の1ほど減らすことができました。体重が増えると、骨塩量の低下を減らせました(体重1kg当たり大腿骨頸部は0.16%、腰椎は0.09%)。骨塩量の低下速度は、追跡開始時の体重とも関係しました。


イソフラボン類は、植物で作られるポリフェノールのひとつであるフラボノイドです。このイソフラボン類に、ゲニステインやダイゼインが分類されます。これが一般的にイソフラボンと呼ばれる物質で、大豆などのマメ科の植物に多く含まれています。イソフラボンに、女性ホルモン類似作用があることは良く知られるようになりました。イソフラボンは、私たちの細胞のエストロゲン受容体に、結合することができます。エストロゲンとは異なる結合様式ですので、全く同じように作用するわけではありません。それでも、骨を強くしたり、骨塩量を高める効果が期待できます。

しかし、私たちの体には、ホルモン類似の思わぬ作用が発揮されることがあります。普通の食事量であれば、そこに含まれるイソフラボンが、ホルモン過剰作用を発揮することはありませんが、サプリメントなどで、精製されたイソフラボンを大量にとると、問題が起きてくることがあります。厚労省が食品安全委員会に委託した成績によると、普通の食事に加え、さらにとっても問題の起きない量のイソフラボンは、30mg(アグリコン換算量)とされています。

骨と女性ホルモンの関係について、まずイソフラボン作用についての、論文からご紹介します。まず、こうした論文では、必ず、対照群がおかれていることにご注目ください。薬成分が全く含まれていない偽薬を使う群をおいて、薬を使った人と、薬を使わなかった人とを比べます。それぞれの群の人たちが、なんとなく効いた気がするというメンタル因子を排除することができます。この治療薬においては、デキサというレントゲン所見で、骨塩量の増加を評価していますので、メンタルな影響は少ないのですが、それでも条件を同一にして対照群をおくことが、薬効の判定に必要なのです。日常では、サプリなどにも、カルシウム、ビタミンDは含まれますが、使用した人が、何となく効いた感じたという主観的な薬剤効果は、あまり意味がないわけです。テレビやネットなどで、サプリが効いたとする広告にあふれていますが、何をもって有効としているのかに、注意をむけてください。サプリなどの場合は、個人の印象として書いてあるものが多いと思います。

47-57歳の健康女性についての成績です。イソフラボンの代表物質である、ゲニステイン(genistein)と、女性ホルモンHRT(17-βエステラジオールE2+ノルエチステロン)を1年間投与して、それぞれの治療をうけた女性たちの群において、骨塩量の上昇程度を比較しています。

大腿骨頭の骨塩量の増加に関しては 
            ゲニステイン3.6%
            HRT 2.4%
            対照群 -0.65%

腰椎の骨塩量の増加に関しては      
            ゲニステイン3.%
            HRT 3.8%
            対照群 –1.6%
出典 PubMed 12369794



次の論文は、
1年間の女性ホルモン(エストラジオール+ノルエチステロン)の治療により、
閉経期の女性の腰椎、腰(大腿骨頭)の骨塩量が増加することを証明した論文です。
この論文では、対照群(コントロール群)の他に、もうひとつ別の群をつくり、3群で比較しています。3群目は、ラロキシンフェン(セーラムと呼ばれる治療薬の1種)です。この3群間で、骨塩量に対する効果を比較したものです。
この試験は、1年間という短期間で、1年間であっても、女性ホルモンは、セーラムより骨を強くすることに有効であることが示されています。

エストラジオールとノルエチステロンによる、骨粗しょう症治療
エストラジオール1mgとノルエチステロン0,5mgの合剤あるいは、ラロキシンフェンを、12ヶ月使用し、薬剤のないコントロール郡と、骨塩量の増加程度を比較した。

腰椎骨の骨塩量は、ラロキシンフェン 2.3%、女性ホルモン群 5.8%
大腿骨の骨塩量は、ラロキシンフェン 2.1%、女性ホルモン群 3.2%
総骨塩量は、ラロキシンフェン 2.9%、女性ホルモン群 4.6%
女性ホルモン群では、C-テロペプチドやオステオカルチンは低下した。
出典 PubMed 17701771 2007年


それでは、もう1本、ホルモン療法の効果について、書かれた論文を紹介します。ホルモン療法に、破骨細胞の阻害薬であるクロドロネート(clodronate)という治療薬を上乗せして、骨塩量の増加に差が見られるかを検討した研究です。5年間の観察です。
60歳前後の閉経期の女性を、次の3郡に分けました。女性ホルモン療法群、ホルモン療法+クロドロネート群、対照群です。女性ホルモン療法群の単独でも十分な効果がみられました。

腰椎骨塩量  女性ホルモン療法群 4.2%
       女性ホルモン療法+クロドロネート群 3.7%
       対照群  -1.1%
大腿骨塩量  女性ホルモン療法群 1.3%
       女性ホルモン療法+クロドロネート群 2.4%
       対照群  -3.3%
オステオカルチンの減少
       女性ホルモン療法群 55%
       女性ホルモン療法+クロドロネート群 70.3%
       対照群  -51.8%
骨アルカリフォスファターゼの減少
      女性ホルモン療法群 39.4%
      女性ホルモン療法+クロドロネート群 42.1%
      対照群  -30.2%
出典 PubMed 20547017




それでは、こうした女性ホルモン療法による効果は、女性の皆に期待できるのでしょうか?次の論文は、フィンランドにおける大規模な疫学調査です。参加した女性は、14220人でした。このうち閉経後早期の女性が、比較試験に参加した数は、464人でした。調査期間は、5年間です。結論は、ホルモン療法開始時に、やせている人、喫煙者、FSH(濾胞刺激ホルモン)の高い人では、骨に対するホルモン療法の効果が低かったのです。ここでも、喫煙が女性の体に及ぼす影響の大きさをうかがい知ることができますね。人工的なホルモン補充に反応しない人では、骨は丈夫になっていないようです。

骨塩量は、デキサで腰椎と大腿骨で測定し、治療の効果を評価した。5年間の観察後、腰椎では、11%の女性に治療の効果がなかった。大腿骨では、26%の女性に治療の効果が無かった。
それでは、そのような女性に、ホルモン療法の効果がでなかったかを検討すると、治療開始後、半年後の検査において、FSH(ろ胞刺激ホルモン)の高い人(閉経後には皆上昇する数値)、エステラジオール値の低い人、アルカリフォスファターゼの変化の少ない人は、ホルモン補充の効果が低かった。5年後の骨塩量は、やせている人、喫煙している人において、骨塩量の上昇が期待できなかった。
PubMed 10824236


 

 
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