ホルモン補充療法(HRT)


女性ホルモンは痛みを和らげたり、炎症を調節する。

エストロゲンは、体のさまざまな働きを調節しています。そうしたエストロゲンの働きのひとつをご紹介しましょう。

エストロゲンは、体が腫れたり痛くなる現象(炎症と呼ばれる)を、抑える作用があります。私たちの体に病原体が侵入すると、私たちは、敵であるその病原体を除去しようと、体に炎症という反応を起こします。炎症とは、熱が出る、体が痛くなる、腫れるという体の現象です。エストロゲンは、こうした私たちの体の反応を抑える働きがあるのです。

この反応は、どのように確かめられたかについて、人体実験をした海外の成績を紹介します。

細菌から抽出した毒素を注入する実験です。エストロゲンのある女性では、無い女性より、毒素に対する反応が弱められます。方法は、閉経後、エストロゲン治療によりエストロゲンが十分にある女性と、エストロゲンの低い女性の反応の比較です。 この結果、エストロゲンは、体に強い炎症反応が起きないように抑える働きがあることが確かめられました。

経皮的なエストロゲン補充療法をしている女性群6名において、補充療法をしている時と、していない時に、菌体内毒素を静脈内に投与して、その後の体の反応を比較しました。菌体内毒素あるいはACTH注入の、2時間前および7時間後まで、15-20分ごとに血液サンプリングをしました。コルチゾールおよびプロゲステロン(黄体ホルモンは、増加しました (P<0.001)。ホルモン補充のない女性では、基礎の黄体化ホルモンLH値は、菌体内毒素(P=0.58)の後でも、時間による変化はありませんでした。しかし、同じ女性で、ホルモン補充をしている時には、黄体化ホルモンLHは著しく増加しました。(P=0.02)。 両方のグループで、プロゲステロン上昇後、2-4h後から黄体化ホルモンLHは上昇し、最後まで上昇していました。十分なエストロゲンがある状態では、視床下部―脳下垂体―副腎の軸のHPA軸が活性化して、黄体化ホルモンLHが放出すると言えます。一方、十分なエストロゲンがないと、プロゲステロンが上昇しても、LHの上昇は起きないことがわかりました。これらの研究により、月経周期の過程で、卵胞期に強いストレスを受けると、時期尚早の黄体化ホルモンサージ(急に上昇すること)が起きるかもしれず、その結果、卵胞の成熟および排卵が邪魔され、生理周期が傷害されるかもしれません。この現象は、ストレスが月経周期を狂わすひとつの機序である可能性を示します。
Puder JJ らJ Clin Endocrinol Metab. 2000 Jun;85(6):2184-8.



女性ホルモンはLDLコレステロールを下げ、HDLを上昇させ、中性脂肪は増加させます。エストロゲンは、脂質代謝に関しては、多彩な影響があります。

エストロゲンはLDL(低比重コレステロールで俗に悪玉コレステロール)、レムナントリポタンパクを減少させ、LDLの酸化を抑制します。

エストロゲンは、肝のトリグリセリドリパーゼ(HTGL)を抑えるため、HDL2(高比重コレステロール2、俗に善玉コレステロール)からHDL3への水解を抑制します。HDL2が肝臓に取り込まれるのを抑えます。肝・小腸において、HDLアポAI(HDLの主要構成蛋白)の合成を促進させます。このように、エストロゲンは、産生を促し、取り込みをおさえる結果、血中のHDLは上昇します。

エストロゲンにより、肝臓の中性脂肪の新生が増加し、血中VLDLが増加するため、血中の中性脂肪は増加します。しかし、HTGL(肝のトリグリセリドリパーゼ)活性が抑制されるので、LDLは、増加しなくてすみます。

エストロゲンは、肝臓や末梢のLDL受容体を発現させ、細胞へのLDLの取り込みを増加させるため、血中LDLは低下した状態を保ちます。

 

 
inserted by FC2 system