ホルモン補充療法(HRT)


生活習慣と肝臓の病気

C型肝炎、B型肝炎などは、新聞に取り上げられることの多い肝臓の病気です。日本の女性では、60歳を過ぎると肥満の人が20%を超えてきます。若い女性の肥満は、内蔵型ではないのですが、加齢とともに女性の肥満も、内蔵型になっていきます。内蔵型は心臓の冠動脈、肝脂肪への影響が大きいのです。女性は若い時はやせていますが、中年をすぎると肥満程度があがってきて、それにつれて、脂肪肝の人がふえてきます。 健康診断で必ずでてくる肝臓の数値、AST(GOT)、ALT(GPT)がありますが、この正常値は、米国では、男女で数値が異なります。男性では、30IU/L、女性では19IU/MLです。難しいのは、この軽度上昇している肝臓機能をどのように評価するかです。軽症な場合は、しばらく経過をみないと、なかなか評価できないことがあります。むしろ、結論の早く出る場合は、進行が早いとか、経過が悪い場合が多いのです。

女性は糖尿病があると、男性より高率に心筋梗塞・狭心症などがおきやすいのは、良く知られた事実です。女性は病気にはなりにくいが、いったん、なんらかの病名を得ると、他の臓器にも負担が及んでしまいます。健康診断で、肝機能異常を指摘される方は多いと思います。医師に行くように言われても、なかなか決心できません。すると、次の機会の検査の時には、肝機能は良くなっています。なあんだと思う方も多いと思います。しかし、肝機能が悪いということは、すでに肝臓の予備力が低下してきたことなんです。こうした方では、アルコール、喫煙をひかえてください。

あるいは、軽度な異常がだらだらと続くことがあります。太っていなくても、お酒を飲まない人でも、肝臓の機能が悪くなることがあります。A,B,C型肝炎でもなく、アルコールでもなく肝炎がおきて来る人がいます。原因不明だけど、異常が続く、そうした悩ましいことがあるのも、女性肝臓の病気です。薬による肝機能障害は、女性に多く、今回はそうした話題にふれます。

肝臓の構造
病気を勉強する前に、肝臓の構造については、ウィキペディアを、ご参照ください。http://ja.wikibooks.org/wiki/%E7%B5%84%E7%B9%94%E5%AD%A6/%E8%82%9D%E8%87%93
肝臓は、小葉という単位でできています。肝臓に影響を送る小葉間動脈、小葉間静脈、小葉間胆管は、セットになって、小葉と小葉の隙間にできるグリソン鞘(さや)に収まっていて、肝臓全体に細かく分布します。

アルコール

肝臓は、アルコール分を消去してくれる大事な臓器です。アルコールなる物質が体に入ってくると、肝臓は必死に働き始め、短期間で蕪毒化しようとします。アルコール性肝炎は、それこそ、読んで字のごとく、アルコールによる“炎”です。肝臓の病気で、“炎”という字がはいるかどうかは、大事なことです。それはすでに病気であること、そして将来が心配であるということを意味します。アルコール分解が容易である間は、“炎”は起きにくいです。“炎”は、すでに一過性負担の出来事でなく、肝臓に病気がおこっているという意味ですし、一旦、肝機能が良くなったとしても、再度、アルコールによる“炎”が起き、その障害が積み重なって行きます。アルコールが来るたび、肝臓は“私ががんばらなければならぬ”の思いで、解毒作業を開始します。アルコールが分解できて、やれやれと思ったところで、第2陣のアルコールがきます。再度、がんばります。そうしているうちに、肝臓の細胞が壊れていきます。壊れた細胞の部分は、急きょ、新しく作り直します。作り直しをくりかえしていく間に、肝臓はだんだん固くなっていきます。そう、これが、誰でも知っている肝硬変です。

この“炎”がつくような状態になることと、やはり、まずいのです。アルコールを飲んだ翌日でも肝機能が正常で酒に強い人でも、だんだん翌日まで肝機能異常を持ち越すようになります。肝臓のすみやかな解毒能力が、飲んだアルコールに見合うだけ、働かなくなってきているのです。その結果、おきてくるのが、“炎”ですが、肝臓の構造が変化していることを示す言葉です(正確には、顕微鏡などによる検査を要します)。

肝臓のアルコール無毒化能力が落ちてくると、人の健康はおおいに破壊されます。若い時は解毒能力が強いですが、誰でも、その能力は衰えていきます。アルコール分解するためには、肝臓のみでなく、体じゅうの全臓器が動員されます。アルコールの解毒作業をしている間は、他の大事な体の働きは犠牲になります。がんをつぶす能力も低下して、がんになりやすくなりますし、感染症にも弱くなります。特に注意すべきは、個人差はあるものの、女性は、アルコールを無毒化する能力は、男性の2/3 と言われます。

肝臓でのアルコール代謝は、サイトゾールにおけるアルコール脱水素酵素  AlcoholDehydro-genase:ADH)と、ミクロゾームにおけるMEO (Micro-somal Ethanol-Oxidizaing System)と呼ばれる、解毒システムにより行われます。
ADHという物質名は、生まれつき、酒に強い人と、弱い人がいる理由を説明する時、必ずでてくる用語(酵素の名)でしたね。ADHは、エタノールをアセトアルデヒドに分解する物質です。この時できたアセトアルデヒドは、さらに酢酸まで分解されますが、その作業を行うのは、別の酵素のアルデヒド脱水素酵素を(ALDH)です。

アルコールをすばやく分解できるかどうかの能力は、それぞれの人の持つ遺伝子の影響をうけます。それが、酒に強い人と、弱い人の違いでした。このアルコールを分解する過程で、活性酸素が生じます。活性酸素は、細胞障害を起こします。女性は、アルコール代謝の機能が悪く、男性より少ない量のアルコールで、肝臓がだめになります。アルコールによる酸化ストレスが強く起きます。アルコールに限らず、酸化ストレスは、細胞を弱られていきますよね。かけがえのない細胞がまた、ひとつ、いなくなりました。新しく現れた細胞は、前の細胞よりやや実力が落ちています。緻密で堅牢な肝臓の構造が壊れて行くわけです。

男性は、女性より酒が飲めるのは、アルコールを分解する能力が高いからです。男性が深夜まで飲んでいても、次の日には働けますね。多少、お酒の匂いがしても、男性は働いいます。しかし、これは、女性には無理なのではないでしょうか?そして、この毒性物質を毒できる能力は、個人差が大きいですよね。そして、いまさらのことではないですが、女性酒に弱いのは、女性は、酒中の毒素(エンドトキシン)を吸収する能力が高いこと、さらに毒消す能力が低い(代謝能力が低い)など、女性特有の不利な因子が他にもたくさんあります。それで、アルコール摂取が、男性より肝臓に負担をかけてしまうのです。アルコールによ負担が強ければ、それに耐えきれない肝臓の細胞は死んでいきます。アルコールによる障害は、γ―GTPという数値が上昇するのが特徴です。AST(GOT)、ALT(GPT)と呼ばれ数値も上昇します。細胞が壊れて、内部の酵素が漏れ出してくるのです。健康診断の血液査で必ずでてくる肝臓の数値、AST(GOT)、ALT(GPT)がありますが、この正常値は、米国では、男女で数値が異なります。

この“炎”の字がつかわれる場合には、急性と慢性があり、A型肝炎の急性型はよく治ることが多いです。急性の肝炎は、全身倦怠、黄疸、発熱。右季肋部の痛みなどを生じるので、私たちは病気に気づくことが多いです。しかし、新聞で話題になる、B型、C型肝炎は、一筋縄ではいきません。慢性肝炎は検査をして初めて気付くということが多いです。肝臓病気は、しばしば、知らずして慢性の経過をとります。そして最後に行き着くところは、肝硬変であり、肝がんです。

肝機能の異常を、男女の違いから読む女性の肝臓の病気には、男性とは異なる特徴があります。元々、女性は感染症に抵抗力があり、細菌、ウイルスなど病原体を殺す能力は高いです。C型肝炎ウイルスも同様に、男性の方がC型肝炎ウイルスによる肝炎の進行が早く、予後が悪い(肝硬変、肝がんで死にやすい)のです。男性は、C型肝炎ウイルスが増える速度が速いようです。しかし、C型肝炎ウイルスの特効薬のインターフェロンは、女性で効きが悪いようです。女性はもともと、インターフェロンの分泌能力が高いのです。しかし、見ら作ったインターフェロン(内因性のインターフェロン)でも、治せなかった人が患者として残ってしまうので、そうした人では、さらに外から薬としてインターフェロンを追加しても、なかなか治療効果ができにくのではないかと考えられています。

C型肝炎では有利に働いていた女性の能力が、一方で、肝炎の原因になることがあります。女性の異物排除の能力が高いことが、逆に災いをするのです。それが女性に多い自己免疫性肝疾患です。“自己免疫性”とは、自らで、自らの肝臓を痛めつけてしまう病気です。女性は、体内に侵入した物質に対して、いろいろな対抗するための物質を作りこんで、強く反応します。病原性のある外来物質がくれば、それを殺すための物質を作ります。たとえば、女性はTNF-αなどを呼ばれる物質を多く作りますので、これらが、自分自身の肝臓もだめにしてしまうわけです。こうした現象が、女性の自己免疫疾患の発症機序です。

女性と肝臓


女性の肝臓病
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
肥満や生活習慣病でおきてくる病気です。内蔵型の肥満を合併すると、肝臓に脂肪がたまりますが、エコー検査をすると、輝く肝臓と呼ばれるように白く光って見えるのが脂肪肝です。この病気は、程度が軽ければ、9割以上は大きな病気にはつながらないですみます。しかし、一部の人で、肝硬変、肝がんがおきてくることから、やはり、注意が必要なんです。この病気が疑われる場合は、肝機能のチェックをつづける必要がでてきます。脂肪肝は、さらに別の因子があると、悪化が進みます。俗にいう体質による悪化ですが、体質の中身は、必らずしも解明されてはいませんが、その人が、活性酸素をうまく処理できる能力があるか?TNF-αをつくりやすいか?インスリン抵抗性(血糖を下げる物質であるインスリンの効果がでにくい)があるか?鉄を処理する能力がしっかりあるか(鉄は肝炎を悪化させる)? 代謝酵素(CYP2Eなど)が働いているかどうか? など、いろいろな個人の能力に依存しています。初期には、どの人がどのくらい悪くなるかは、なかなか予想できないものです。
脂肪性肝炎(NASH)
この病気のうち、肝臓の組織を一部とって、顕微鏡などを用いて組織検査(肝生検と呼ばれる検査)をして、肝炎の程度を見ることがあります。こうした特殊検査で、肝炎の所見がはっきりすると、病名が変わり、脂肪性肝炎(NASH)となります。顕微鏡で肝臓の組織をみると、病気がすすんでいるという証拠をつかまえることができます。いすれにしろ、“炎”がつくようになると、要注意なのです。最終的に肝炎があるかどうかは、こうした検査によらざるをえません。肝炎になっていても、初期には自覚症は無く、軽度のALT(GPT)の上昇がみられるだけですが、さらに進んでくると、ヒアルロン酸という数値が上昇してきます。脂肪肝のある人の中で、肝炎になっている人は、さらに肝硬変や肝がんになりやすいのです。脂肪肝から肝炎が起きてしまった人を男女差で比べてみると、女性の方が高血圧や糖尿病を合併している人が多く、女性は男性より軽度な肥満で肝炎になりやすいと言えます。

原発性硬化性胆管炎(PSC)
胆管が線維化で硬くなる病気であり、男性の方がやや多いです。管内の胆管が慢性に線維化(硬くなり詰まってしまいます。内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)により、特徴的な所見があります。

女性特有の肝臓病

自己免疫性肝炎(AIH)
女性に多い自己免疫の機序(自分で自分の細胞を殺す)でおきてくる病気で、日本では1万人位(うち8000人が女性)、病気の人がいます。抗核抗体、抗平滑筋抗体、抗肝腎マイクロゾーム抗体が陽性になったり、γグロブリンの高値がみられます。免疫細胞が、自らの仲間であるはずの細胞に対して反応を起こしてしまいます。これも、女性が感染因子に対して、強く反応できることが裏目にでてしまうことで、おきてしまう病気です。

原発性胆汁性肝硬変(PBC)
これも、女性の多く、胆管が壊れていく病気です。85%位まで、女性が占める病気です。肝臓の中にこまかく分布している大小葉間の胆管の壁が壊れてしまいます。胆管は、肝臓でつくられる胆汁を集めて胆のうまで運ぶための管で、肝臓内に細かく分布しています。この管の壁が壊れてしまいます。すると内部にため込んだ胆汁が肝臓内にこぼれてきてしまいますので、肝臓の細胞は壊れていきます。日本で年間の発症数は500人、全国では約2万人の患者がいます。妊娠回数の多い閉経以後の女性に発症しやすいです。ALPなど胆道系の酵素が上昇し、コレステロールも上昇する。抗ミトコンドリア抗体陽性、抗M2抗体陽性、IgMが上昇します。
 

 
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