ホルモン補充療法(HRT)


メンタルトラブル対処法の根拠となる論文について書きます。

ラットで、コルチコトロピン放出因子の性差を証明した論文を紹介します。

Mol Psychiatry 2010;15:896
今回は、受容体蛋白とG蛋白の結合状態に、メスとオスで差があることを証明しています。また、受容体を働かせなくする(恐怖の感度を落とす)しくみについても、性差があることを証明しています。メス・オスは共に、受容体はG蛋白と結合して(c-AMPによるエネルギーを得て)機能します。

オス・メスのラットに、コルチコトロピン放出因子(CRF)に対するLCニューロン(Locus cerueus)活性化の程度を、調べました。実験は、コルチコトロピン放出因子(CRF)を投与して、LCニューロンの発火の増強を測定しました。受容体が増加していると、コルチコトロピン放出因子(CRF)投与により、ノルエピネフリン作動性LCニューロン の活性化(発火)が増加します。

さらに、ラットにおいて、ストレスが無い状態と、ラットを泳がせてストレスをかけた(スイムテスト)後で、LCニューロン発火の変化を見ました。

ストレスが無い状態では、オスラットでは、低用量のコルチコトロピン放出因子(CRF)を投与しても、LCニューロンの発火は見られず、スイム後(ストレス後)では、LCニューロン は発火しました。一方、メスラットでは、ストレスが無い状態でも、低用量のコルチコトロピン放出因子(CRF)の投与で発火し、スイム後(ストレス後)では、LCニューロンの発火の増強はありませんでした。

高用量のコルチコトロピン放出因子(CRF)を投与した場合には、オスでは平時も反応(発火)しましたが、スイム後は反応が低下しました。一方、メスでは平時も強く反応し、スイム後の反応の減弱は少ないという結果でした。

高用量のコルチコトロピン放出因子(CRF)に対して、反応が起きなくなる理由は、受容体に内包化が起きて、受容体が感じ難くなるためです。この受容体の内包化の働きを担うベータアレスチン2蛋白の働きに性差がありました。

オスでは受容体にベータアレスチン2蛋白が結合して、受容体の内包化へと、ベータアレスチン2蛋白がしっかり働くのに対し、メスでは受容体にベータアレスチン2蛋白が働きにくいという結果でした。メスではスイムテスト後、時間がたっても、受容体の内包化が起きずに、ストレスを感じやすい状態が続きました。


さて、恐怖実験の時に、このコルチゾール(ステロイド)を人工的に体内に入れると、恐怖の程度はどのように影響されるのでしょうか?

今回、紹介するのは、コルチゾール30mg、あるいはプラセボ(偽薬)を静脈内投与した後、恐怖の条件付けへの影響をみました。条件付けをした後に、fMRIや、皮膚伝動速度を用いてテストを行いました。コルチゾールとプラセボ(偽薬)間で、fMRIと皮膚伝動速度を比較したものです。

この実験でも、男性は、コルチゾールを入れた後では、恐怖感が低下したのに対し、女性は、そうした調整は無く、むしろ恐怖感は上昇したという結果が得られました。ステロイド物質である、女性ホルモンは、今回の実験には使われていませんが、コルチゾールと同様の作用になる可能性が考えられます。
PMID: 19683399 Psychoneuroendocrinology. 2010 Jan;35(1):33-46

人体実験は、20人の男性と、19人の女性において、恐怖の条件付けを行い、条件付けを覚えさせた後、テストに移りました。
条件付けの方法は、決まった数値を示し、その後に電気刺激を加えました。他の数値では電気刺激は無いようにしました。脳の活性化の評価には、観察、fMRI、皮膚伝動速度を用いました。

皮膚伝動速度で評価すると、男性では、コルチゾール静脈内投与により、条件付け反応が低下し、女性では上昇しました(男性は恐怖を感じにくくなり、女性は恐怖に対して反応を強めた)。
fMRI では、 CS+(条件付けに電気刺激を付けた数値を出す) と CS-(電気刺激のない数値を出す)を比べると, 島皮質「insula 、海馬hippocampus、視床 thalamusで活動性の差がでました。
コルチゾール投与により、男性は、CS+とCS-間で、脳の活性化の違いが縮小しましたが、女性では増強されました。扁桃体の活性化は、プラセボ投与時のみで起こり、コルチゾール投与時にはマスクされました。以上の結果は、男女で恐怖の感じ方に及ぼすコルチゾールの作用は、性差が大きいことを示唆するものでした。



 

 
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