女性の初潮の発来時期と呼吸器症状との関係です。
リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis、LAM)
女性ホルモンは、体中のすべての細胞で機能していますが、肺では抗体産生など炎症を起こす一方、炎症を抑える方向にも働く多機能物質です。又、肺の細胞の増殖にも深くかかわっていますが、増殖作用が行き過ぎないように、他の物質とバランスをとりあっています。こうした複雑な肺を機能させている物質のひとつでも異常がおきると、私たちは病気になってしまいます。女性の肺の病気で有名な、リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis、LAM)という病気があります。
この病気はめずらしい病気です。日本人では、100万人に1.2-2.3人です。平均発症年齢は、30歳です。しかし、この病気が医学界で注目されている理由は、患者のほとんどが女性であることです。子宮筋腫に似たような病態で、それが肺でおきてしまうわけで、女性の病気の原因を考えるのに、多くの示唆を与えてくれます。女性ホルモンの多い月経のある若い女性を悩ませます。増殖因子としてのエストロゲンが、細胞を増殖させてしまいます。
リンパ脈管筋腫症は、肺でLAM細胞とよばれる腫瘍細胞が増える病気です。この細胞は、腫瘍抑制遺伝子TSC1,TSC2に遺伝子異常を持ちます。LAM細胞の形は、平滑筋細胞様です(平滑筋とは、内臓を動かす筋肉です)。肺に多胞性(袋状のものが多数できる)の構造物ができます。
この病気は、どのような経過で発見されるかで、予後や経過が変わってきます。一番、予後が悪いのは、呼吸困難で発見される場合です。若い女性では、呼吸が苦しいとの訴えは、ほとんどメンタルなものが多く、頭の中で、息が苦しい気がすると感じていることが多いです。しかし、この病気は、「苦しい感じ」ではなく、本当に呼吸がくるしくなります。
すでに、正常の呼吸ができる肺胞構造がこわれた事を示します。酸素と二酸化炭素の交換ができない拡散障害という状態です。さらに閉塞性障害という喘息と似た状態も起きてきます。血中酸素をはかると低下しています。動くとさらに、苦しくなります。
一方、リンパ脈管筋腫症LAMが、呼吸困難で発見される以外に、検診などの肺のレントゲン、CT検査で多胞性の構造物が偶然みつかり、LAMが診断されることもあります。この場合の方が、病気は軽いことが多く、進行もゆるやかです。
リンパ脈管筋腫症では、胸水やリンパ液が胸腔内にたまったりします。気胸という肺に空気がもれる状態になることもあります。この病気が疑われれば、胸腔鏡下あるいは経気管支鏡下で肺生検(肺の組織を針でとって調べること)をします。
治療は、エストロゲンを抑えることです。そのために、プロゲステロン(黄体ホルモン)による拮抗作用を利用したり、閉経状態を人工的に作り出す、GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)を用いた療法が試みられてきました。近年は、さらに遺伝子を標的とする治療にシフトしてきており、腫瘍性に増殖するTSC1,TSC2遺伝子をおさえるシロリムスで成績があがっています。
日本のリンパ脈管筋腫症の予後は、1995年ごろは、5年生存率70%、10年40%位でしたが、最近は、5年生存率90%、10年76%位になっています。しかし、重症例では、呼吸困難の進行が早いため、10年後には、半数の女性しか生存していないのです。
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