ホルモン補充療法(HRT)


女性の初潮の発来時期と呼吸器症状との関係です。
女性ホルモンが、肺機能に及ぼす影響に関しては、まだ、十分には解明されていません。喘息のある女性が、妊娠した場合、妊娠が喘息に及ぼす影響に関しては、データは一定していません。妊娠中に大量に増えるプロゲステロンは、妊婦の気管支を拡張させると言われていて、胎児に酸素を供給させるために役だっている可能性があります。しかし、女性ホルモンが呼吸器に及ぼす影響は、個人差が大きい(ホルモン感受性に個人差が大きい)ものと思われます。
 
しかし、初潮の発来時期と呼吸器に関しては、ある程度、データは出ているようです。早熟で早期に女性ホルモンサイクルの始まる女性では、呼吸器への影響は望ましいものではないようです。今回の論文では、10歳以下で初潮をみた女性と、平均的な初潮の発来である13歳前後の女性をくらべて、両者の間の肺機能の違いや喘息を比べています。
 
初潮が来て、女性ホルモンが増加すると、女児の身長の伸びや、体の発育が止まります、一方、男児では、思春期以後も身長が伸び続け、特に呼吸器は20歳過ぎまで発育を続けます。その結果、男性の強くたくましい体が作られ、この時期に、小児期からの喘息の影響は消失しやすいとされています。
 
男児は、年少時期に喘息が多いですが、改善します。思春期以後は女性に喘息が多く、かつ難治になりやしぃです。先進国ほど、この男女差が目立ちます。女性ホルモンは、呼吸器にはあまり保護的に働いていないようです。女性ホルモンは、アレルギーなどの抗原感作を増加させます。膠原病の代表であるSLEでは、閉経すると、疾患活動性が低下します。今回は、こうした初潮と呼吸器の関係に関する論文を紹介します。Am J Respir Crit Care Med. 2011 ;183:8-14.

要約
初潮が早期に始まる人では、喘息、心血管疾患、糖尿病、乳がんが増えることが分かりました。
方法: ヨーロッパのCommunity Respiratory Health Survey IIと呼ばれる多施設参加の女性の健康に関する研究です。21の医療施設において、27-57歳の女性3,354人を対象に、1998-2002年にアンケート調査をして、生育歴を調べました。初潮の発来が 10歳以下は、全体の3.4%、12-13歳は51%、14歳20%、15歳以上12.5%でした。初潮時期の違いにより、両親の喘息の有無に、有意差はありませんでした。
 
初潮が10歳以下であった人では、3人以上の子どもを持つ人が23%と多かったです。また、10歳以下の初潮発来者には、肥満が多く、BMI25以上が60%でした。一方、12-13歳の初潮発来者では、BMI25以上は40%前後でした。対象女性のうち、肺機能測定をしたのは2,873人、気管支過敏症の測定をしたのは2,136人、そして、gE測定をしたのは、2,743人でした。二項回帰分析は、年齢、高さ、肥満指数、教育、喫煙、家族のサイズなどで調整しました。
 
結果:初潮が早期に始まった人では、喘息が多くなり、肺機能は低下し、1秒率FEV(1)や、強制肺活量FVCは低値でした。13歳に初潮が来た女性と比較して、10歳以下で初潮を経験した女性は、FEV(1)が113ml、低値となりFVCでは、126ml低値でした(肺機能が悪い)。早期初潮の女性で、喘息は発症が多いのみでなく、症状自体も多くなっていました。(オッズ比、1.80)、高い気管支過敏症(オッズ比、2.79;)、そして、喘息の症状得点が高くなっていました。喘息以外にも、抗原感作や他のアレルギー疾患の罹患率が、増加しました。PMID: 20732985
リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis、LAM)
女性ホルモンは、体中のすべての細胞で機能していますが、肺では抗体産生など炎症を起こす一方、炎症を抑える方向にも働く多機能物質です。又、肺の細胞の増殖にも深くかかわっていますが、増殖作用が行き過ぎないように、他の物質とバランスをとりあっています。こうした複雑な肺を機能させている物質のひとつでも異常がおきると、私たちは病気になってしまいます。
 
女性の肺の病気で有名な、リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis、LAM)という病気があります。
 
この病気はめずらしい病気です。日本人では、100万人に1.2-2.3人です。平均発症年齢は、30歳です。しかし、この病気が医学界で注目されている理由は、患者のほとんどが女性であることです。子宮筋腫に似たような病態で、それが肺でおきてしまうわけで、女性の病気の原因を考えるのに、多くの示唆を与えてくれます。女性ホルモンの多い月経のある若い女性を悩ませます。増殖因子としてのエストロゲンが、細胞を増殖させてしまいます。
 
リンパ脈管筋腫症は、肺でLAM細胞とよばれる腫瘍細胞が増える病気です。この細胞は、腫瘍抑制遺伝子TSC1,TSC2に遺伝子異常を持ちます。LAM細胞の形は、平滑筋細胞様です(平滑筋とは、内臓を動かす筋肉です)。肺に多胞性(袋状のものが多数できる)の構造物ができます。
 
この病気は、どのような経過で発見されるかで、予後や経過が変わってきます。一番、予後が悪いのは、呼吸困難で発見される場合です。若い女性では、呼吸が苦しいとの訴えは、ほとんどメンタルなものが多く、頭の中で、息が苦しい気がすると感じていることが多いです。しかし、この病気は、「苦しい感じ」ではなく、本当に呼吸がくるしくなります。
 
すでに、正常の呼吸ができる肺胞構造がこわれた事を示します。酸素と二酸化炭素の交換ができない拡散障害という状態です。さらに閉塞性障害という喘息と似た状態も起きてきます。血中酸素をはかると低下しています。動くとさらに、苦しくなります。
 
一方、リンパ脈管筋腫症LAMが、呼吸困難で発見される以外に、検診などの肺のレントゲン、CT検査で多胞性の構造物が偶然みつかり、LAMが診断されることもあります。この場合の方が、病気は軽いことが多く、進行もゆるやかです。
 
リンパ脈管筋腫症では、胸水やリンパ液が胸腔内にたまったりします。気胸という肺に空気がもれる状態になることもあります。この病気が疑われれば、胸腔鏡下あるいは経気管支鏡下で肺生検(肺の組織を針でとって調べること)をします。
 
治療は、エストロゲンを抑えることです。そのために、プロゲステロン(黄体ホルモン)による拮抗作用を利用したり、閉経状態を人工的に作り出す、GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)を用いた療法が試みられてきました。近年は、さらに遺伝子を標的とする治療にシフトしてきており、腫瘍性に増殖するTSC1,TSC2遺伝子をおさえるシロリムスで成績があがっています。
 
日本のリンパ脈管筋腫症の予後は、1995年ごろは、5年生存率70%、10年40%位でしたが、最近は、5年生存率90%、10年76%位になっています。しかし、重症例では、呼吸困難の進行が早いため、10年後には、半数の女性しか生存していないのです。


 

 
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